2017年08月07日

フィリピンにド沈没してみた1

イタリアとの国境を接する町、フランス・ヴァルディゼール。スキー客で賑わう標高1600メートルの小村にあるスーパーマーケットでパートタイムの仕事に勤しみながら週一回の休日にスキーを楽しむ生活をしていた。スーパーの賄い飯はあまり美味とは言えなかったが暮らしに余裕のない私に贅沢は言えなかった。それでも週に一度だけは少し贅沢をしようと向かいにあるホステルのレストランに通ったのだ。そこにはスカンジナビアからの大学生達がアルバイトをしていた。そのうちの一人に何とも愛らしい女性がおり、私は一目で魅了されてしまった。う〜む、何とかしたい(笑) 私はスーパーの休憩時間にホステルへ行くと同じく休憩中の彼女に意を決して切り出した。「今晩、一緒にバーに飲みにいかないか?」暫く沈黙が続いた後にOKの返事を貰った。

その後のスーパーの仕事が恐ろしく捗ったことは言うまでもない。そして彼女の仕事が終わる午後10時にホステルからほど近い電気店の前で彼女を待った。しかし1時間待っても彼女は来ない…。標高1600メートルの雪の降る村での1時間は筆舌に尽くしがたい寒さだ。落胆と生命の危機を感じながら我慢の限界に達し、私は一人で彼女と行くはずであったバーへと向かった。すると入口のセキュリティーガードの男が満面の笑みを浮かべながら私に言った。「おっ、色男の登場だよ〜。お前、無謀にも彼女を誘ったんだってなあ。ひゃあっはっは〜!彼女、この店の奥でもう一人の色男と飲んでるぜ〜。」こんな小村だけに私の黒髪は東洋人として独特のアイデンティティーを示していた。暇な村人の話題に私は常に登場していたようだ。なんで知ってるんだよ?!とガードの男に聞く間もなく私は店の奥へと走って行った。するとお目当ての彼女は”彼氏”と共にランバーダーに興じている最中であった。

私の胸の中で大雪崩が起きた音が響き渡った。あゝ、もうこんなところは嫌だ。フランスなんか糞喰らえだ。もういられない。すぐさまスーパーの寮へ引き返すと私は大急ぎで荷物を纏め旅立つ用意を整えた。翌朝、世話になった店長に「母親の具合が悪いらしいから急いでジャポンへ帰らないといけないんだ…、急に辞めることになってごめんよ。」と伝えると、彼は「いいって、いいって、気にするなよ。緊急事態なんだろ?ぷ〜、クスクス!」と嬉しそうに言った。駄目だ、この村は呪われている。一刻も早く離れなければ。私はバスで下山すると一路ジュネーブへと向かった。
空港へ到着する頃になると私は少し我に返って自分を取り戻していた。逃げるように出てきたもののこれからどこへ行くのか全く決めてなかったことに気が付いた。茫然とフライト発着ボードを見上げながら暫く動けないでいた。するとある考えが閃いた。そうだ、フランスを全否定する国へ行こう。暑くて文化的なものなど何もない国が良い。バックパックから世界地図を取り出すと床一面にひろげて眺めてみた。東南アジア、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピン…、そうだフィリピンに行ってみよう。これがマニラへ上陸することになったきっかけである。なんとも不純だ。

ニノイアキノ国際空港はフランスのシャルルドゴール空港とは全くの別世界であった。とにかくボロいしよく分からない変な臭いもする。これが国の玄関口である国際空港なのか?!驚きを隠せないまま通関所へと向かった。すると「MABUHAY」と掲示されている。意味が分からない。困った、外国人はどのカウンターに並ぶのだろう?仕方なく免税店の店員に尋ねることにしたのだが…。「MABUHAYというのはどういう意味なんでしょうか?」男性店員は私に一瞥をくべると「ようこそってことよ〜ん。」と屈託のない笑顔で教えてくれた。何となくホモっぽい…。そして「キムチ、キムチ!」と手の平を差し出してきた。私は韓国人だと思われ更に馬鹿にされたと感じ、そのホモに背を向けると何も言わずに通関所へと戻って行った。

通関所を抜けるとバゲージクレームエリアで自分の鞄を探した。すると空港職員と思しき男が頼みもしないのにカートを持ってきて使ってくれと言う。そして、「キムチ、キムチ〜」と言った。その男も手のひらを差し出してきた。一体なんだというのだろう。カートを断り、男を追い払うと自分のバックパックをピックアップして税関へと進んでいった。するとそのカート男が税関におり別の職員に耳打ちをしていた。私は鞄を開けながらパスポートを差し出した。税関職員は私のパスポートを受け取るとなかなか返そうとしなかった。私は手を差し出して「返してくれ」という仕草をした。するとその職員も同じように私に手を差し出し「キモチ、キモチ」と言った。私はようやく気がついた。彼らは「気持ちばかりのチップをくれ」と言っていたのだ。そうか、そういうことなのか。恐らくどこかの日本人のおっさんがチップを渡したためこいつらは癖になっているのだろう。まだペソを持ち合わせていなかったため1フラン紙幣を代わりに握らせた。当時のレートで22円くらいだったが、フランの価値が分からないと見え職員は嬉しそうにパスポートを返すと私を外へと出してくれた。そしてこう言った、「マブハイ、ピリピーン!」。

なかなかの好スタートである。アバンギャルド過ぎる。適当に決めてきた国の割にはかなりのヒットを打った予感がした。タクシーでマニラへと向かった。途中、車窓には恐ろしいほど貧相なバラック小屋が流れていった。空港のそばに貧民街があるのか…。しかしどこまで走ってもその貧民街は続いた。なんという巨大なゲットーなのだろうか。30分ほど走ったところでタクシーを降りたのだが、そこもまた古ぼけた佇まいの街並みであった。もう、街全体が貧民街という感じだ。なんだかすごいところに来てしまったゾ。

気が付くと大勢の汚い子供達に囲まれていた。ウェアユーゴー?ウェアユーゴー?と口々に叫んでいる。その中の一番背の高い少年に空港で聞いてきた宿の名を告げる。すると彼はハウマッチ?と聞いて来た。フランを渡そうとすると首を横に振って言った。「ダラー、プリーズ、セール!」最後の言葉は良く聞き取れなかったのだが、1ドル札を渡してみた。彼はベストスマイルを見せると私を宿へと案内してくれた。その間中、十数人の汚い子供達が付いて来た。まるで何かの団体様だ…。

宿に着くと入口のガードマンが子供達を厳しい口調で追い払った。「ウェルカム、セール!」と言いながら私を中へと案内してくれたのだが、あの「セール」というのは一体なんのことなんだろう…。取り敢えず部屋に入り荷物をドサリと置くと疲労感が襲ってきた。ここまで随分な勢いをつけてやった来たのだから不思議もない。フランスでの出来事やこれからのこと、時差ボケなどが混ざり合い頭が混乱してそのままベッドに倒れこむように眠りこんだ。しかしあまりの暑さのためすぐに目が覚めた。エアコンをつけ忘れていたのであった。スイッチを入れる…。ガイーン、ゴガゴガ、ガイーン!モーター音の大きさに驚かされ唖然とした。これでは休めない…。

喉の渇きを潤すため宿の外へと飛び出した。ちょうど正面に日本食店?のような微妙な出で立ちのレストランがあったので中に入ってみた。「ウェルカム・セール」と女性店員の声が響く。再びさきほどからの疑問が湧き起こる。セール…?ただそんなことよりも早く何か飲みたかった。サンミゲルというブランドのビールを頼む。しかしなかなか出てこない。店員に催促すると面倒くさそうにゆっくりとした動きで栓を開けた瓶ビールを運んできた。一気に飲み込む…、が、ヌルい。ヌルいのだ。こんなクソ暑い日にヌルいビールなど有り得ない。「もっと冷たいの出してくれよ!」と半ギレになりながら叫ぶと、またダルそうに店員がやってきて私の飲んでいるコップに氷をドガッと放り込んだ。あゝ、何も言えない…。凄いぞ、この無気力さ。

氷水で薄まったビールをやりながらこれからのことを考えた。もう少し安い宿を探せないか、どの辺りが繁華街なのだろうか、様々なことが頭を巡る。人間不思議なもので考え事をすると腹が減ってくる。メニューを見るとフランスでは見ることが出来なかった和食の数々が書かれていた。「ヘイ、ミス!ワン、シラスおろし!」と注文すると「ワン、シェラスウォロシ〜!」と店員が厨房に叫んだ。オウム返しに厨房から「ワン、チラスウォロシッ!」と声が響いた。そして待つこと20分、やっと店員が料理を運んで来た。テーブルの上にやけに大きめの器がテーブルにガシンと叩き置かれた。そこには「散らし寿司」が載せられていた…。

ミラクルだ!この国はミラクルが起きる国だ!あまりのアホさ加減が逆に凄く気に入ってしまった。凄すぎるぞ、マニラ。私は思わずエキサイトしてしまい、これから起こるであろうミラクルに期待感でいっぱいになってしまった。ヌルいのだがもう少しビールが飲みたくなったのでダルい店員を呼ぶ。今度はメニューのクアーズを指さしてみる。「フィッチワン?」と聞くのでメニューを覗くとクアーズとクアーズ・ライトの文字が見える。あゝ、そういうことか。「Light! Light!」と頼む。そして10分後に皿に載せられたごはんが運ばれて来た。「ライス…」。

<続く>

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ラベル:フィリピン
posted by ランボルギーニ・タコラ at 05:00| Comment(0) | TrackBack(0) | ブログ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする